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起業後1年半で企業再生案件を中心とした25案件に関与 経営のゴールはフリー・キャッシュフローを増やすこと / インタビュー後編

株式会社T&INKキャピタル代表田中裕

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PE等の本当のプロの方達とのFA業務を通じ、M&Aの業務を経験

M&AのFA業務に関しては、LBP在籍時にPE(プライベートエクイティファンド)からのバイサイドのFA案件を経験する。通常の企業再生のDD(デューデリジェンス:詳細調査)や事業計画の策定案件とは異なり、時間と情報取得に制限が掛かる中、数パターンの財務プロジェクションの策定、感応度分析、バリューエーション、ストラクチャーや税務の検討、場合によってはPMI(ポストマージャーインテグレーション)の検討等、精度の高いアウトプットが要求された。「我が国のPEの方達は飛び切り優秀でして、私は彼らクライアントにも鍛えて頂きました」と語るように濃密な時期を過ごしたのだった。

(株)T&INKキャピタルを創業後は、M&Aを伴う案件は、プレパッケージド型民事再生の資金繰り策定及び財産評定業務、青果仲卸業のバイサイドFA業務、石油卸売行のバイサイドFA業務、ビルメンテナンス業のバイサイドFA業務等に関与した。

質の高いM&Aアドバイザリーには企業再生の経験が必須要件

田中氏は、M&AのFAや仲介を行う企業には警笛を鳴らす。

「業者も乱立し、効率的に仲介(マッチング)を行うことのみに特化したり、事前にきちんとしたDDを行わなかったりとブローカーの方々も増加しています。固定費を回収するためには、M&Aの成約時にそれぞれの側から数百万単位の報酬を受領するシステムになってしまっているため、案件の検討が行われる際、M&Aそのものを成約させることに大きなバイアスがかかります。

また、最近では、PEファンド、コンサルティング会社、財務アドバイザリー会社等で財務会計の知見が乏しいまま、その様な仲介会社で働かれておられる方々が増えており、セルサイド、バイサイド共に、きちんとしたM&AのFA業務を遂行出来る会社や方々が少ないと思います。これは真面目に事業承継を検討される経営者様達にとっては、我が子を送り出す場面でもあるわけですし、大変失礼なことだと思います。

また、財務的にはM&Aとは統合後、1+1が2以上になり、文字通りフリー・キャッシュフローが増大化することが目的にも関わらず、FAや仲介業務と称して、マッチングを行わせようとして、手数料稼ぎに走る方々は本当に多いと思います。

大変残念なことに、特にセルサイドのアドバイザリーをきちんと務められる方々は少なく思います。M&Aの経験が少ない経営者様は惑わされてしまい、結果的に統合後きちんとシナジーを得られている案件は1割ぐらいではないでしょうか」。

更に、こう問題提起する。

「とはいえ、仲介業者の方々も現実的には食べていかないといけないかと思いますので、仲介手数料で稼ぎたい気持ちは重々理解出来ますが、企業再生及び事業領域経験のアドバイザリーやコンサルティング業務の経験が少ない方々は、特にセルサイドのFAを務められることは難しいと思います。また、公認会計士、税理士、中小企業診断士の方々も、リアルな財務3表を理解され、プロジェクションを回される方々は大変残念ながら少なく思います。ましてや、事業を理解されるためには、ビジネスのDDを何件かこなされることが必要だと思います」。

非上場の中堅中小企業の場合、経費の公私混同は朝飯前のこと、不適切な経理処理(いわゆる粉飾決算)、“好き嫌い”に基づいたドロドロとした経営ガバナンス体制等、往々にしてビジネスの論理は通用しません。

ルールや制度がきちんとされている大企業のみのビジネス体験をされて、事業承継を見据え、一族の会社に事業承継候補者として入社されても、中堅中小企業独特の環境になかなか馴染めず、事業承継を断念されるケース等も散見されます。

中堅中小企業の場合、最も安心出来る事業の継承相手は、親族が最適だと思います。ですが、どうしても継承相手がいない場合は、必然的にM&Aが求められます。

「バイサイドにとっては、決して高く買わないこと。セルサイドにとっては、統合後のシナジーを見据え、事業の継続が図られること。もちろん、そのM&Aが良かったかどうかは、統合後に明確な“数字”で成績発表がされるため、未来を予測することは難しいですが、少なくとも、その意思決定を行われる事前段階においては、時間が許す限り、DDを徹底的に行われることが、ミスマッチを防ぐことにも繋がると思います」。

瞬く真に今後の日本は、少子高齢化が進む。どの業種、事業においても、企業数そのものがシュリンクしていくことが予想される。

田中氏も自らが、その様な事業承継に悩まれる中堅中小企業や経営者様の受け皿として、主に食に携わる企業の事業承継を主体的に行っていきたい意向だという。

インタビュアー

KSG

関 幸四郎

経済ジャーナリスト

小野 貴史