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ハードな交渉を乗り切る関係作りへ 案件受託の条件は専属契約の締結 / インタビュー後編
株式会社クラリスキャピタル代表取締役牧野安与
買い手側、売り手側、仲介で成約させた案件は全国・各業種
売却理由は海外移住、健康悪化などさまざまで、子育てに専念する目的で売却を考えるケースもあるという。あるいは「私が女性のアドバイザーだから相談しやすいのでしょうか。女性経営者からの相談も多いですね」(牧野氏)という。
取扱案件は全国のさまざまな業種におよび、16年には、買い手側フィナンシャルアドバイザーとして、WEBコンサルティング(買い手)・ヨガスタジオ(売り手)=事業譲渡、小売り・飲食店=事業譲渡、売り手側フィナンシャルアドバイザーとして自転車販売・自転車販売(上場子会社)=事業譲渡、訪問介護・訪問介護=株式譲渡、仲介者として冠婚葬祭(上場)・訪問介護=株式譲渡、システム開発(上場子会社)・システム開発=株式交換などを成約させた。
17年には、すでに2件を成約させている。2月に、学童保育事業者の人材派遣会社への事業譲渡を仲介し、4月には、投資事業のJ-STAR(東京都千代田区)が出資する持株会社JVCCのフィナンシャルアドバイザーとして、動物病院とペットサロンを運営するフジフィールド(東京都調布市)の発行済全株式取得を成約させた。
同社のアドバイザリー業務は、基本的にクライアントと専属契約を結んで着手する。複数のアドバイザリー会社に併行して委託する案件は取り扱わない方針だ(例外あり)。牧野氏は理由を説明する。
「M&Aの交渉は相当ハードです。なかなか商談が進まないと売却側の心が折れてしまったり、買収側からの評価によって傷ついたりすることも多いのです。専属で受託して信頼関係を築かないと、心理面も考慮しながら成約まで運ぶことが難しい。ですから、当社は基本的に専属契約を結んでアドバイザリー業務を引き受けています」
こうした折衝には相応の経験が必要で、数年程度のアドバイザリー業務経験では難しいだろう。
M&Aで買い手と売り手は対等
同社では、依頼があってもM&Aを当面の間、見送るようにアドバイスするケースもある。たとえば売り手の直近の業績の実績が乏しいが、1年後は必ず成長すると想定している場合だ。中小企業は些細な経済環境の変動に翻弄されやすいことから、買い手は売り手による成長の見通しを保守的に見がちであり、未来よりも過去の実績を重視する傾向にある。そのため、業種などにもよるが、売り手が高い確度で成長を予測しているのであれば、1~2期、実績を積んでからのほうが買い手の評価が高まり、高く売却できる可能性が高い。すぐに売却する必要性がないのなら、それから売却のお相手探しをしたほうがよい。そうアドバイスして、1~2年後に、M&Aの依頼を受託する。
一方、買い手に対して、牧野氏は次のように助言する
「投資業を営む会社以外の事業会社の場合は、単に利益がでているなどの数字がいいから、ではなく、本業との相乗効果や成長戦略との整合性を考えるべきでしょう。また、M&Aは買い手と売り手の対等な取引ですから、買う側だから、エライ、どちらがエライなんてことは当然ありません。どのような立場であっても、お相手への敬意を示すことが、よいM&Aに繋がると思います」
独立前を含めM&Aアドバイザリー業務に関わって10年。牧野氏はこの業務に何を見出しているのだろうか。
「M&Aにはハゲタカや乗っ取りなどネガティブなイメージが世間一般的にはまだあるかもしれませんが、現実は、M&Aの取引を相手方に強制させることはできませんし、M&Aは売り手と買い手の双方がハッピーになれる手段だと思います。そのため、良いご縁をたくさん成就させることは、ひいては社会貢献につながるでのは、との思いで取り組んでいます」
牧野氏の誠実な思いが伝わる、率直な言葉である。この明晰なスタンスも、トムソン・ロイターのリーグテーブルにランクインする成約件数に至った原動力に思える。
インタビュアー
KSG
関 幸四郎
経済ジャーナリスト
小野 貴史