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単なる投資でなく、ともに成長する 事業パートナーとして“身内化”へ / インタビュー前編
株式会社ワールドツール代表取締役社長中島 勉
自動車整備用工具を中心に一般産業用工具、LED関連商品、アウトドアグッズなどを扱う「アストロプロダクツ」を全国に約140店舗を直営展開するワールドツール(埼玉県深谷市)。
2015年5月、CLSAキャピタルパートナーズ(アジア有数の証券・投資銀行部門を擁するCLSAアジアパシフィックマーケッツグループ)が運用するバイアウトファンドであるサンライズ・キャピタルは、ワールドツールの株式の一部を取得、事業パートナーとして国内事業の強化や海外展開をサポートする。ワールドツールの中島勉社長、CLSAキャピタルパートナーズの皆川亮一郎ディレクター、同・前田泰典シニアバイスプレジデントに提携の狙いや今後の構想を聞いた。(聞き手・経済ジャーナリスト 小野貴史)
約15社のファンドのなかから“本腰度”で選ぶ
――中島社長がCLSAと接点を持った経緯についてお聞かせください。
中島 1965年生まれの私は、50歳になったら経営から引退して、農業と養鶏業を始めるプランを描いていていました。業績は伸びていたのですが、群馬県内に1000坪の土地を購入し、軽トラックも購入して、雑木の伐採など開墾作業を行なう準備をしていました。このことは社員にも話していましたが、本気にしていなかったようです(笑)。
一方、複数の取引銀行にも引退の意向を話したところ、各行から「IPOができる経営内容なのにもったいない」と言われ、そこからM&Aやファンドとの提携の話が出てきたのです。各行からファンド会社をそれぞれ2~3社紹介され、15~16社と面会しました。
いくつかのファンドからは事業支援とIPOに向けた支援も示され「ファンドと組めば事業をさらに成長させて、社内体制の問題もクリヤして、ひょっとしたらIPOできるかもしれない」と気持ちが動きました。
――15~16社のファンドと面会したなかで、どんな基準で提携先を絞ったのですか。
中島 当社は資金には困っていなかったので、絞込みの基準は事業の成長やIPOに向けた社内体制整備のサポートなど力を貸してくれることでした。私は各ファンドと面会を重ねていくなかで、当社に合ったファンドを4社に絞り込み、そこにCLSAさんも含まれていたのです。
――4社のなかからCLSAを選んだ理由は?
中島 CLSAさんは銀行の紹介でなく、皆川さんがCLSAの別の出資先である深谷市の自動車オークション会社ミライブ(当時BCN)さんに社長として出向されていて、当社がミライブさんの会員だったご縁で、お越しになりました。4社から提示された株式の取得条件はほぼ同等だったのですが、CLSAさんはラブコールが熱心で…(笑)。それから出資先のミライブさんに出向している2人が深谷市にアパートを借りて常駐していますが、当社にも同じように常駐していただけると言われ、とても心強さを感じました。
条件面では、出向者の給料、経営指導料、配当などは一切要らないと示されたので、CLSAさんが利益をあげるには当社を発展させる以外にありません。本腰を入れて取り組んでいただけると確信したのです。CLSAさんと話をするうちに、まだ社長として一緒に事業を伸ばしたいという気持ちになり、引退する気持ちはなくなって、逆に力が入りました。
SPAモデルによる成長力にIPOと海外展開の可能性
――皆川さんは、どんな経緯でワールドツールに着目したのですか。
皆川 ミライブの社員から「会員のなかに凄く伸びている会社がある」と聞かされ、ミライブ社長としてご挨拶に訪問したのです。お話しているうちにファンドとやりとりされていることを聞かされたので、CLSAとミライブの関係や私の立置をご説明し、「ぜひCLSAにも検討させていただけないか」と申し出たことが、提携のきっかになりました。
――その後、どんな提案をしたのでしょうか。
皆川 ファンドの場合、100%出資する場合もありますが、ワールドツールさんは成長し続けていたので、このパターンではないなと。今の強みを生かしたまま伸ばしていけるし、社内体制を強化すればIPOも可能です。しかもCLSAのネットワークを活用して海外展開をすれば、さらに優良な会社へと発展できると判断しました。投資先というよりも事業パートナーとしてワールドツールさんとの関係を考えました。
――今の強みを生かしたまま伸ばしていけると言われましたが、ワールドツールの何が強みだと評価したのか、聞かせていただけますか。
皆川 毎年2ケタ成長を続けていますが、なぜ2ケタ成長しているのかを分析したところ、ビジネスモデルが非常に素晴らしい。工具の市場は卸しが幾重にもあるなど流通構造が非常に複雑ですが、ワールドツールさんはアパレル業界でいうSPA(企画製造小売り)モデルを確立して、品質の良い商品を低価格でユーザーに直接販売しています。競合店を寄せ付けない勢いで伸びていて、ニトリさんやABCマートさんの成長期をイメージさせるような成長力を持っていると思います。
では海外ではどうだろうかと調べたら、海外では工具のSPAプレイヤーがほとんどいないので、日本に似た需要のある市場であればアジアでも欧米でも中東でも、どこにでも進出できる可能性があります。たいへん夢のある会社です。この会社といっしょに私も成長できたら、こんな幸せなことはないと思いました。中島社長にもお話しましたが、この会社に出会うためにCLSAに就職したと思っているぐらいです。
――SPAモデルを確立できた鍵は何でしょう?
中島 同業の工具店が国内の問屋さんから仕入れているなかで、海外の展示会に行って、海外から直接仕入れるルートをつくり上げたことです。自動車用工具の種類は海外のほうが圧倒的に多く、品揃えを豊富にできたことが強みになりました。
インタビュアー
KSG
眞藤 健一
経済ジャーナリスト
小野 貴史