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中堅企業こそ「仲介」ではなく「アドバイザー」の起用を / インタビュー後編

マクサス・コーポレートアドバイザリー株式会社代表取締役社長森山 保

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「仲介」は構造的に利益相反の問題を抱えている

同社が主に手がけるのは、中堅企業の事業承継、大手企業のノンコア事業のカーブアウトやミドルクラスの買収案件、そして、経営が悪化した企業の事業再生型M&Aなどが中心だ。なかでも中堅企業の事業承継が今後大幅に増加すると、森山社長は期待を寄せる。以前は、M&Aというと『乗っ取り』のような悪いイメージが付きまとっていたが、今はもうそのような時代ではない。M&Aは大企業だけの話ではなく、あらゆる企業の選択肢になってきているし、事業承継の手段としても定着しつつあるからだ。

「オーナー企業の事業承継でも、親族への承継だけが全てではなく、M&Aという手法も選択肢のひとつとして考えられるようになってきました。実際に、以前よりも、M&Aの専門家へのニーズは高まっていると実感しますし、今後もそのような傾向は続くと思っています。

しかしながら、『M&Aの専門家 = M&A仲介業者 』というイメージが、特にオーナー企業においては多いように思います。結婚相談所と同じように、『相手探し』だけがM&A専門家の業務だと思われている実感があります。実は、この考え方は、大変危険なのです。M&Aでは、相手を探すことも勿論重要ですが、いくらで売買するのか、どのような手法を採用するのか、金額以外の契約条件をどのように定めるのか、買収後にどのようなリスクがあるのか、等々様々な論点を検討する必要があります。相手を探せば終わりというものではありません。」

事業承継を考えている特に中堅企業のオーナー経営者に対して、森山社長は「仲介」と「アドバイザー」の違いをきちんと認識し、専門家を使い分けるべきだと注意を促す。

「たとえば、不動産は仲介業が成り立ちます。物件の個別性が少なく、立地・面積・築年数等の条件によって、ある程度の価格感が決まってくるので、『相手探し』で業者の価値の多くが決まるからです。売主・買主の双方から仲介手数料を徴収しても、『相手探し』の報酬ということであれば、トラブルになることはあまりないでしょう。しかし、企業は生き物ですから、不動産と同じようにはいきません。

M&Aでは、財務データを打ち込めば値段が決まるような簡単なものではなく、どのような手法を採用するかによっても、法務や税務のリスクも違ってきて値段も異なります。売却側アドバイザーの腕ひとつで、競争環境の作り方も異なってきますし、結果として売却金額に何十億円の差が生じることすら考えられます。中堅規模の優良会社であれば、買収に興味を持つ会社も様々でしょうから、やり方次第で結果が大きく異なる可能性があります。ところが、仲介の場合、売り手だけでなく、買い手からも報酬を徴収するので、必ずしも売却額を高くしようというインセンティブが働きません。仲介業者との取引を嫌う上場会社も少なからずありますが、売主のオーナーの利益のためには、本来はそのような上場会社にも案件の打診をすべき場合であっても、仲介業者の場合は、『高く買ってくれる会社』ではなく『仲介報酬を払ってくれる会社』に案件を打診するインセンティブが働きます。また、営業マンのインセンティブ報酬の度合いが高い場合には、更に『早く案件を完了させたい』というインセンティブも加わり、じっくり腰を据えてアドバイスするということもやりにくい環境にあります。

仲介の場合には、売り手と買い手の双方を顧客にする形になります。売り手は高く売りたいし、買い手は安く買いたいと思うのが当然ですから、その間に立って双方に助言するというのはそもそも構造上無理があります。いわゆる利益相反の問題です。実際、報酬だけを目当てにした仲介など、さまざまなトラブルの事例を耳にします。

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どんな企業にも、ちょっとした問題は必ずあるでしょう。例えば、売り手企業から案件成立に影響を及ぼし得るマイナス情報を聞いた仲介業者は、それを買い手企業に伝えたら案件が消滅するリスクがあったとして、自社の雇い主でもある買い手企業にしっかりとその内容を伝えることができるのでしょうか?また、売り手オーナーは、仲介業者に相談した内容が、全て買い手企業に手の内を明かされるリスクもあるわけですが、それで交渉上いいのでしょうか?

案件の規模が小さいうちは、相手探しにその価値の多くがありますから、利益相反の問題はそれほど多くはないかもしれません。しかし、案件の規模が大きくなればそうした問題点が浮き彫りになります。本来は、もっといい条件でのM&Aを成就させられたはずの中堅企業のオーナーが、専門家選びに失敗していないかという心配があります。

しかし残念ながら、アドバイザーの認知度はまだ十分とは言えず、仲介業者に相談される中堅企業のオーナー社長が少なくありません。全ての仲介が悪いとまでは言いませんが、構造上の問題があるのは確かで、あとは担当者の人柄や誠実さ、そしてモラルに頼るしかありません。ですから、ある程度の規模の会社の事業承継で売却を考えている経営者の方には、仲介とアドバイザーの違いを理解していただいた上で、適切な専門家に相談されることを強くおすすめします」

かつては「乗っ取り」のようなイメージが強かった日本のM&A。だが、そうした負の印象は徐々に薄れ、経営手法の一つとして定着しつつある。

一方で今後、中堅企業の事業承継にからむM&Aは増えていくとみられ、マクサス・コーポレートアドバイザリーにとっては強い追い風が吹いているといっていい。森山社長もその波に乗って事業を拡大したいと意欲を示す。

「中堅規模案件におけるM&Aアドバイザーの需要はますます大きくなると思います。そのニーズに応えるためにも、もう少し会社規模を大きくしたいという思いがあります。一方で、規模が大きくなるにつれて、サービスレベルが低下したり、機動力が失われては本末転倒です。当社が目指すのは単なる規模の拡大ではありませんし、大きくすること自体を目的化するつもりもありません。大事なのは、こういう案件ならマクサスにお願いしたいといわれるような、信頼感を生み出すことです。結果として、ミドルサイズの案件を手がける国内トップの専門機関でありたいと思っています。そういった信頼感は、一朝一夕に築けるものではありません。お客様との長期的な信頼関係の下に、徐々に形成されるものだと思っています。私は、短期的な結果を求めず、長期的な視点にたってサービスを提供させて頂くことで、徐々に結果を残すことができればいいと思っています。プロとして当然ですが、顧客のためには、しなくていいM&Aについては、ストップさせるような助言もしっかりとしていきたいと思います。」

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インタビュアー

KSG

眞藤 健一

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