全米有数の大企業であったRJRナビスコを1989年にレバレッジド・バイアウト(LBO)によって250億㌦で買収し、世界中にその名を轟かせた世界最大のファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)。KKRは2006年に日本に上陸する際に、投資先企業を保有する期間は平均して7.5年であると公表した。 7.5年もの間には、様々な経営上のできごとがあるだろう。しかし、ファンドにいるキャピタリストでもM&Aバンカーでも、企業経営に関しては基本的に〝ペーパードライバー〟であろう。
そのことに対して「経営の〝プロドライバー〟から学んでいくことが重要です」と助言するのは、日本興業銀行(現・みずほコーポレート銀行)でインベストメント・バンキングに従事するだけでなく、自らトップ経営者として秋田の老舗医薬品卸会社だった千秋薬品などの企業再生に携わり、更に大手不動産会社、外銀、投資ファンドなどの顧問も歴任してきた、せおん代表取締役の越純一郎氏だ。
そして、越氏が経営に関する古今東西不変なものとして真っ先にあげるのが「経営理念」である。確かに、ピーター・ドラッカー、松下幸之助、稲盛和夫、永守重信ら著名な経営学者や経営者も、口を揃えて経営理念の重要性を説いている。越氏がそのことに気づく一つのきかけになったのが、1998年に米国で参加したジョンソン・エンド・ジョンソンの社内ベンチャーのチェアマンの講演会だったという。
「100年以上も増収増益である理由を尋ねられたチェアマンの答えは『ミッション』でした。ミッションとは経営理念のことで、それが同社の『Credo(クレド)』です。同社の人事評価制度では、『Credoを守っていて個人業務成績も良い人』が最高ランク、『両方だめな人』は最低ランク。問題は、『Credoを守っているが個人業務成績は芳しくない人』が第2ランクだということです。つまり、個人業務成績が高くても低くても、Credoを守っていれば、上から2番目までにはなれるのです。一方、個人業務成績がよくても、Credoを守っていないと3番目の評価しかもらえません。経営理念が業績と直結していることと、経営理念の浸透の重要性がわかりました。」
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効果が絶大なのに、あまり知られていない2つの実務