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加速する大手企業のベンチャー買収 専門仲介会社を新たに設立 / インタビュー前編
早稲田M&Aパートナーズ株式会社代表取締役CEO和家智也
ベンチャー起業家の意識も変化。顧客の声をビジネスチャンスに
第二次安倍政権が掲げたアベノミクス「3本の矢」により、日本経済は活気を取り戻した。事実、株価、経済成長率、企業業績、雇用などの経済指標を見ると、改善ぶりが目立つ。これに伴い、ベンチャー企業にも多額の資金が流れるようになってきた。
背景にあるのは、大企業の積極的な投資姿勢だ。ますます激化するグローバルレベルでの生き残り競争を勝ち抜いていくには、自社で事業を立ち上げ育てていくといった時間的な余裕はない。業績好調もあって、手元には豊富な資金があるだけに、優れた技術力・ノウハウを有するベンチャー企業を買収してしまったほうが確実、かつスピーディーであると考えるようになってきている。
ベンチャー起業家の意識も大きく変わってきていると指摘するのは、早稲田M&Aパートナーズ株式会社 代表取締役の和家 智也氏だ。
「10年前は、まだまだ『会社は自分の城。社員は家族の一員』という時代でしたが、近年のベンチャー起業家はある意味で『情熱的』であり、ある意味『ドライ』です。実際、会社をぐっと成長させた後は、プロの経営者に任せるか、大企業に売却し、本人は新たな事業を立ち上げるというケースが増えてきています。もはや、自らの手で何が何でも新規上場株(IPO)を目指すというベンチャー起業家ばかりではありません」
そうした大企業・ベンチャー起業家のニーズに積極的に応えていきたいと、和家氏は2017年9月にベンチャー企業専門M&Aアドバイザーとして早稲田M&Aパートナーズをスタートアップさせている。
「もともと、2006年にWEBサイトのM&Aを手掛けるゼスタスを創設していたのですが、数百万円から数千万円という小規模案件がほとんどでした。『サイト売買』という新たな市場を開拓することで、多様な案件を数多く売買成約させる経験を積むことができました。ただ、最近では『会社を丸ごと売る相談はできるのか』『何億という規模にも対応できるのか』とお問合せを頂く機会が増え、このビジネスチャンスを逃さないためには、新ブランド・新組織として展開すべきであると考えました。そこで、新会社を立ち上げることを決意したのです」と和家氏は語る。
全員が起業経験者。ベンチャー起業家に寄り添えるのが強み
新会社の特徴は、何点かある。第一に、独自のポジショニングだ。大小のM&A仲介会社がひしめくなか、早稲田M&Aパートナーズでは譲渡金額が5000万円から5億円の案件に狙いを定めている。また、ネットベンチャー・IT関連企業を専門にしている点も見逃せない。何でも仲介できると謳うのではなく、特定の規模と分野に絞り込んで専門性を訴求することでエッジを利かせている。
「これまでゼスタスでお付き合いのあった小規模ネットベンチャーの起業家が事業を拡大していく中で将来のことを考え、ふと企業売却を思い立った時、最初に当社のことを思い出してもらうにはどうすれば良いかを考えました。また、既存のM&A仲介専業会社と差別化を図り、自分たちが負けないポジションを確立する必要性もありました」(和家氏)
二つ目は、優秀なメンバーが揃っていることだ。和家氏が「新会社で一緒にやらないか」と声を掛けたのは、早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻(通称:早稲田大学ビジネススクール:WBS)時代の同級生たち。いわゆる、MBAホルダーであり、経営の理論体系や財務会計に精通しているメンバーが役員として名を連ねている。
「立ち上げにあたり、皆で米国のシリコンバレーに行き、本場のベンチャー市場を垣間見てきました。その創造的な環境を日本にも定着させたいと誓った仲間たちです。私を含め全員が30代で、それぞれが会社を起業しています。年代もベンチャー起業家と近く、彼らの気持ちを汲み取り、寄り添っていくことができるのは、大きなアドバンテージとなるはずです」(和家氏)
三つ目は、ベンチャー企業の無形資産を評価し、企業価値を算定するオンライン価値算定システムを開発・提供している点だ。
「ベンチャー企業のノウハウ、先行投資、研究開発、会員、市場認知度などの無形資産は、従来の手法ではその価値を正しく算定できず、企業売却の際の課題となっていました。ゼスタスで10年以上にわたり培ってきたサイト売買の経験・知見も加味し、新会社で適正な企業価値をオンライン上で算出できる仕組みを構築しました。適正な企業評価を示すことで、ベンチャー企業と大企業がM&A交渉において合意形成をしやすくなります」と和家氏は強調する。
インタビュアー
ライター
袖山 俊夫