設立した日本M&Aアドバイザー協会では70社が稼働
完全成功報酬契約のメンバーをどれだけ増やせるか。これが同社の事業拡大を左右するが、大原氏は「社員に比べて個人事業主のコントロールは難しい。いまのスタイルだと最大で20人、実際は10人ぐらいが限界かもしれない」と打ち明ける。
この限界をカバーする体制として、大原氏は2010年に一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会を設立した。地場で営んでいる公認会計士や税理士、経営コンサルタントなどにメンバーに加わってもらい、ノウハウとネットワークを活用して、案件発掘から成約まで中小企業のM&Aをサポートしようと考えたのである。
現在メンバーは70社。士業のほかに不動産事業者や複数のフランチャイズに加盟するオーナー企業、あるいは企業売却の経験者もいる。「このメンバーは良い形で売却ができなかったので、経験を活かしてアドバイザーになって良いM&Aを成約させたいという目的で入会している」(大原氏)。
ここで、大原氏は意外なことを指摘した。
「じつは世間のM&Aの多くが失敗している。当社で手がけた案件は半分が成功しているので、成功率は高いほうだ」。
世間のM&Aの多くが失敗するのは経営者の問題
何が失敗を招いているのだろうか。原因は二つあるという。第一に買収側の経営者が買収後の経営を明確にイメージしていないこと。イメージしていれば、事前リサーチで精査すべき要素が明らかになり、フタを開けたら想定と違っていたという事態を回避できる。第二の原因は、買収側の経営者が買収した企業の経営を担当役員任せにして、深くコミットしないこと。
どちらも経営者の問題で、アドバイザーにはカバーできない。経営者の関与は売却側との初回面談にも必須で、大原氏は「初回面談に買い手の経営者が出席すると本気度が伝わる」と強調する。
その一方で、売却側の経営者にも問題が多く、自社に関わる契約内容や店舗別の収支などを正確に把握せず、根拠のある説明ができない経営者も少なくないのだという。信憑性が疑われるだけではない。「経営状況を把握していないと、自社のバリューを見逃してしまうこともある」(大原氏)という失態も引き起こしてしまう。
中小企業のM&Aニーズは全国で高まってゆく気運にあるが、サポート機能は東京に偏在しているのが現状である。すでに日本M&Aアドバイザー協会のメンバーは名古屋市、大阪市、広島市、福岡市などに点在しているが、当面はメンバー数200社をめざす。
いずれ各都道府県に約30社を配置し、全国1500社の拠点化に取り組む構想だ。M&Aのインフラが整備されれば、地方経済の新陳代謝にも寄与するだろう。