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社長が拒否権を行使できる持株比率 ファンド主導の経営判断を回避する / インタビュー後編

株式会社ワールドツール代表取締役社長中島 勉

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経験と勘にロジックを注入して“意図した成長”へ

――店舗数は約140店ですね。何が多店舗化の推進力になりましたか。

中島 当社の商品は専門性の高い商品なので、店舗立地は一等地である必要がありません。店舗の多くが撤退した店舗の居抜き物件なので、初期投資を抑えられたことが大きいと思います。

前田 出店のスピードを速められたのは、出店投資を抑えたことはもちろん、中島社長が多店舗化の強い覚悟を決めたことも大きいと思います。同じ業態の競合はほとんど店舗数を増やしていませんから。

――店舗は直営ですが、フランチャイズ(FC)展開は考えないのですか。

皆川 専門小売りという業態にFCはなじまないと思います。実際、SPAモデルで伸びている小売りチェーンは直営が多いです。FCに加盟したいという希望は持ち込まれていますが、今後もFCを積極的に考える方針はありません。

――提携内容についてお尋ねします。何をポイントにしましたか?

皆川 われわれはファンドなので過半数を出資しますが、精神としてはジョイントベンチャーで取り組みましょうとお話しました。そして、われわれだけで重要な決定をできないように、中島社長にも3分の1超の株式を持っていただき、拒否権を行使できるように設定しました。事業面は基本的に現有戦力で伸ばしていただいて、われわれはデータ分析に基づく戦略や方針策定、海外進出をアシストし、管理面ではIPOに向けた体制整備や管理強化をわれわれが管轄するというイメージです。

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――前田さんはワールドツールに取締役として出向していますが、何を担当しているのでしょうか。

前田 私は深谷市内に住居を借りて、基本ワールドツールに常駐しています。役割としてはファンド担当者の基本的な仕事であるガバナンス、会計、システム、組織の強化などに加えて、営業面では、事業の成長を会社が自らの手でコントロールできる状態を目指して商売を全面的にアシストしています。商品とか、品揃えとか、顧客向けサービスとか、店舗開発・店舗運営とか、物流とか、それぞれの現状をデータに基づき分析して、今どこにいて、どこに向かっているのか皆でしっかりと理解する。前期の年間売上高は約70億円で2ケタ成長を果たしましたが、なぜこのような結果を残せたのかを理解した上で、今後どのように伸ばすのか、そのために何をすべきか狙いを定めて、結果を検証して改善するというPDCAサイクルを根付かせることに取り組んでいます。

――さらに成長させるための仕組みをつくっているような取り組みですか。

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前田 いえ、成長をコントロールするための取組みです。現在も順調に成長しており、今後も続くとは思うのですが、成長自体は単なる結果です。熱意を持って懸命に働いた結果として成長した、ではなく、どのように事業を成長させるのかの明確な意図を持った上で、意図通りに成長するために必要なことに取り組み、その成否・結果が見えるようにしたいのです。

皆川 どちらかと言えば、これまではビジネスモデルとすぐれた人材をベースに経験と勘で伸びてきましたが、そこにロジックを注入して、ロジックに基づいて事業展開をしようとしているのです。

中島 私も勘で経営してきました。「この工具は、去年は売れたけど今年は売れないね、やっぱり形を変えないとダメかな?」というように勘で判断していました。それがCLSAさんと提携してから、カテゴリー別や店舗別に前年同月比の売上高や品目数を数字で出すようになったので、勘と数字を付き合わせて、すぐに方向性を打ち出せるようになりました。

社員株主一人ひとりにファンドとの提携を説得

――ロジックの注入によって、社員の考え方や働き方も変わったのではないかと思います。

中島 私もそうですが、欠けているものがすぐに分かるので、成長戦略を練りやすくなりましたね。

前田 分析に慣れてくると、自信をもって行動に移れるようになり、やりやすくなったと話しくれる社員が多いです。たとえば商品でいえば、店舗在庫品が約4000種類もあって、改廃スピードも速いので、売上のダイナミクスを把握するのは結構大変なんです。あるカデゴリーで売上が下がっているのに直感的には原因がよく分からない。データを整理してみると、そのカテゴリーに去年は30種類あった商品が今年はなぜか15種類しかなくて、それが売り上げの減っている原因ならアイテム数を増やす。個別商品に競合が発生しているのなら価格やスペックを改善するとか、一つひとつのアイテムごとに市場で何が起きているのかを理解して、伸ばしていくことをしつこく進めています。

――皆川さんは、どんな関わり方をしているのでしょうか。

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皆川 現場に張り付いてしまうと見えなくなる要素もあるので、俯瞰的に見ています。毎週1回開かれる経営会議に出て状況を把握し、さらに前田から報告を受けて、会社があるべき方向に進んでいるかどうかをチェックしています。

――ところで、ファンドに株式を譲渡することに対して、社内の抵抗はなかったのですか。

中島 じつは社員株主が約20名いまして、彼らに納得してもらうのが大変でした。仕事を終えてから、私が一人ひとり食事に呼んで株式譲渡の話をしました。個人面談です。1対20で説明したら私が潰されてしまうので(笑)。ところが、私が話し出すと、ほとんどの社員が普段と違って私と目を合わせようとせず、下を向いてしまうのです。「えっ?社長、何言ってんの?本当に引退して農業をやるの?」という感じで。

しかし、ファンドを入れて成長した企業の例を説明し出すと、徐々に表情が前向きに変わっていきました。「社長、その話、いいですね。やりましょうよ」と言ってくれた社員もいました。1人だけですけど(笑)。

――最終的にどうやって説得しました?

中島 社員株主を集めて、社内でCLSAさんに説明会を開いていただきました。そこで社長が話していたことは本当で、ファンドと提携することも一つの道だ、皆で会社を大きくしていけると納得してもらえました。私一人が納得したところで、皆の気持ちが乗ってこないと次の成長に進めませんからね。

――本日はありがとうございました。

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インタビュアー

KSG

眞藤 健一

経済ジャーナリスト

小野 貴史

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