富士フイルムは、新たな遺伝子導入技術を用いた治療薬の実用化を目指すバイオベンチャーのときわバイオの第三者割当増資を引き受け、同社に1億7000万円を出資したと発表した。
今回の出資を通じて、同社が開発した遺伝子導入技術である「ステルス型RNAベクター」技術を研究分野で使用できるライセンス権を取得し、本技術をiPS細胞の作製に応用していく計画。
iPS細胞は、無限増殖能力とさまざまな細胞に分化する能力を持つことから、創薬支援や細胞治療への応用が期待されている。iPS細胞は、血液細胞や皮膚細胞などiPS細胞のもととなる細胞にベクター(*1)などを用いて初期化因子(*2)を導入し作製されるが、初期化因子の導入手法によって各種細胞への分化のしやすさが異なることが最近の研究で明らかになっている。そのため、初期化因子を導入するための技術開発が世界中で進められている。
ときわバイオは、新たな遺伝子導入技術を用いた治療薬の実用化を進めているバイオベンチャー。人工的に合成して作製したベクターを用いて、細胞の遺伝子を傷つけることなく細胞質内へ多くの遺伝子を導入できる「ステルス型RNAベクター」技術を開発。現在、本技術を応用して希少疾患に対する遺伝子治療薬の開発を進めている。さらに、バイオ医薬品(*3)や再生医療製品への展開に向けて、本技術を用いた遺伝子組み換え細胞やiPS細胞の作製の検討も進めている。
富士フイルムは、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーである米国子会社Cellular Dynamics International, Inc.(以下、CDI社)を中核に、iPS細胞関連ビジネスを展開。現在、創薬支援領域ではiPS細胞由来分化細胞などを世界中の大手製薬企業や研究機関に対して提供するとともに、細胞治療領域では自社再生医療製品の開発に加え、研究用途で使用するiPS細胞などの開発・製造を受託している。
富士フイルムは、今回の出資を通じて、ときわバイオの「ステルス型RNAベクター」技術を研究分野で使用できるライセンス権を取得。まずは、本技術を創薬支援領域へ応用していく。具体的には、本技術と、CDI社がこれまで培ってきたiPS細胞の培養や分化誘導などの技術・ノウハウを組み合わせることで、新たなiPS細胞由来分化細胞を開発し製品ラインアップを拡充していく。さらに、「ステルス型RNAベクター」技術を細胞治療領域にも応用し、研究用途で使用するiPS細胞などの開発・製造受託ビジネスを拡大していく。
富士フイルムは、長年の写真フィルムの研究で培ってきた高機能素材技術やエンジニアリング技術と、日本初の再生医療製品を開発・上市した、グループ会社のジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの治療用細胞の生産技術、CDI社の世界トップのiPS細胞関連技術・ノウハウ、和光純薬工業株式会社の培地技術を融合し、再生医療分野の研究開発をさらに推進していくことで、再生医療の産業化に貢献していく。
*1 細胞内に遺伝子を導入する能力を持つ核酸分子。
*2 血液細胞や皮膚細胞などの体細胞に、増殖能力とさまざまな細胞への分化能力を持たせる遺伝子。iPS細胞を作製するためには、細胞へ人工的に初期化因子を導入する必要がある。
*3 低分子医薬品では実現できない作用を持つ、たんぱく質などの生体分子を活用した医薬品。ワクチンやインスリン、成長ホルモン、抗体医薬品などを含む。通常、遺伝子を組み替えた微生物や動物細胞に産生させたたんぱく質を用いて作製する。