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倒産件数の減少は企業再生の証左ではない / インタビュー

西村あさひ法律事務所西村あさひ法律事務所 パートナー/弁護士松嶋 英機

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倒産件数の減少は企業再生の証左ではない

地方経済の綱渡り状態が続いている。人口の減少基調のなかで、とくに若年人工の減少に伴って地元中小企業が衰退し、つれて一蓮托生の関係にある第一地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合も混迷を強いられているのだ。 金融機関への公的資金の投入や、中小企業向け融資の返済保証などによる延命策はいつまでもつのだろうか。

「中小企業金融円滑化法の適用で、30〜40万社が返済の先延ばしで救われたが、そのうち5〜6万社が危ないと言われている。5〜6万社のうち、10%はなんとか再生できたが、90%は再生計画案を作れない状態で、体力が落ちてきている私は、30〜40万社のなかで、5〜6万社に該当しない企業も本当に存続できるのか?疑問に思っている。

西村あさひ法律事務所パートナーで弁護士の松嶋英機は、そう危惧を示す。松嶋は企業再生の第一人者として知られ、日本航空などを再建した官民ファンドの地域経済活性化支援機構の社外取締役、および機構の地域経済活性化支援委員長に就任している。

社外取締役とはいえ、支援委員長は常勤である。松嶋は毎日8時50分に機構に出勤して再生業務に携わり、午後3〜4時に法律事務所に戻って弁護士業務に入るというスケジュールだ。中小企業再生のまっただ中で指揮を執る松嶋は、現況に最も知悉している専門家の一人である。

その危惧とは裏腹に倒産件数が減少傾向にあるのは、政権の意向が反映されているという。東京商工リサーチの調査によると、2013年の全国企業倒産(負債総額1000万円以上)は1万855件。倒産件数は前年比10.4%減で5年連続で前年を下回る低水準となった。負債総額は2兆7823億4700万円で2年ぶりに前年を下回り、23年ぶりに3兆円を下回った。

中小企業浮上のカギはチャレンジと決断

このデータに対して、松嶋は異を唱えるのだ。「民主党政権も自民党政権も公的資金をばらまいて、中小企業の延命を図って“倒産が減った”とアピールしてきている。現実は何ら上向いていない。地域金融機関は引当金不足のため損失を出せず、融資先を倒産させられないのが実情である」

円滑化法終了後のフォロー策として3年間の暫定リスケが施行されたが、3年間で再生計画を作成できなければ破綻処理が下される。これが金融庁の示した方針だ。もはや延命策に限界が見えつつあるなかで、打つべき施策は何か。松嶋は企業の新陳代謝を提言する。「存続の難しい企業は清算して、存続できる企業を強化して人材や設備を引き継いでもらう。あるいは起業する若者を支援する。

この新陳代謝が必要で、政府が新陳代謝にどのように関わるかが問われている」 こうした渦中で中小企業が浮上するには、チャレンジと決断、この2つの要素が欠かせないというのが松嶋の見解である。

多くの中小企業は従来からの事業を従来通りの方法で営み、コストダウンを繰り返しながら存続してきた。しかし、それも限界に達している。そこには成長力が芽生えず、新たなチャレンジが喫緊の課題になっているが、はたして踏み出せるかどうか。さらに問題を先延ばしせずに、たとえば腕を切り落としてでも心臓を残すような決断を下せるかどうか。

経営アドバイザーとして弁護士を生かすポイント

「誰かが経営者にアドバイスしてあげないといけない」(松嶋)というが、弁護士にアドバイスを求める場合、起用のポイントは主に2つあると松嶋は指摘する。 第一に起用の時期である。資金繰りの悪化や訴訟など問題が発生してからではなく、ホームドクターとの関係のように常日頃から関係を築いておくこと。問題点を早めに把握して、事前に手を打っておくためである。
「お茶を飲むような関係になれば、ちょっとしたことでも相談しやすくなってアドバイスしてもらえるようになる」(松嶋)という。

第二に弁護士の選定である。経済や経営に精通した弁護士は決して多くはなく、まして地方では、企業の分割や譲渡、私的再生などを処理できる弁護士は限られてくる。

適任の弁護士を選ぶには、銀行や商工会議所、地元の経営者団体などで評判を確認することが大切である。ただし、松嶋はこう釘を刺す。「企業再生を手がける弁護士に関しては、あの案件は自分が担当したというような自慢話をする弁護士は、実力があるとは限らない。本を出版すると世間では評価される風潮があるが、出版と弁護士としての実力は関係がない」

一方で、弁護士もまた依頼者を選ぶのである。松嶋が心から力を尽くしてあげたいと思う経営者は、誠実で懸命に努力をする人だ。そうでない場合は、報酬を請求せずに依頼を断るケースもある。過去の依頼者には、松嶋の名刺を持参して銀行を訪問し、松嶋の知名度を利用して、嘘を並べ立てた経営者もいたという。

こうした弊害を防ぐために、松嶋は信頼のできる知人を介した依頼でなければ受けない方針を固めている。 顧問契約の締結についても、弁護士の立場から判断している。よほどの依頼者でも締結していないのだ。
ひとたび顧問契約を結ぶと、依頼者によっては「弁護士を使い放題にできる」という姿勢になって、些細な要件でも呼びつけるようになりがちだからだ。 松嶋には、同業の弁護士や司法修習生に講義をする機会も多い。「同じ依頼者に同じ助言を述べても説得できる弁護士と説得できない弁護士がいるが、その違いは人間性にある。依頼者が安心して相談できる人間性を磨くことが大切だ」と説いている。

CEO社長情報に収録されたものを再掲載しています。

 

取材・文/経済ジャーナリスト・小野貴史